“ギブソンピックアップで連想するのは何でしょう”と訊かれたとき、ほとんどのギタープレーヤーはハムバッカーを連想するでしょう。その反応には同意しますよ。ギブソン社のセス・ラヴァーが50年代中盤に開発したピックアップ(PAF)は、代表的なギブソンサウンドの根幹をなすトーンです。しかしながら、PAFの前に既に登場していたシングルコイルピックアップ、P90を試してみるチャンスを逃すべきではないでしょう。P90は幅のあるサウンドが特徴で、決して消えてなくなりはしない魅力があります。さあ、P90が再び脚光を浴びています。以下では、P90に関して是非知っておきたい情報をお届けいたします。
第二次大戦後に登場したピックアップ
1946年、第二次世界大戦は終結しました。ギブソン社はギター生産において平時のフル生産体制を取り戻し、新たなピックアップを製品ラインに導入しました。そのピックアップこそシングルコイルピックアップのP90でした。ギブソンのP90ピックアップは、1957年にパテント・アプライド・フォー・ハムバッカー(PAF)が登場するまで、異論の余地なくギブソンピックアップの主役の座に君臨していました。
しかしながらP90は、PAFの登場後も製品に搭載され続けました。60年代前半のSGモデル登場後、再びシングルカッタウェイ仕様のLes Paul Standardモデルが1968年に再発されたとき、そのレスポールにはP90が搭載されていました。ブリッジ・ピックアップにはハムバッカーが新たに組み込まれ改造されていましたが、トム・ショルツの1968 Les Paul をチェックしてみてください。これらP90搭載のレスポール・スタンダードは、徐々にギブソン・ミニハムバッカー搭載の仕様へと変更していく過渡期を経て、今日我々がLes Paul Deluxeと呼ぶモデルへと引き継がれていきました。
皆さまは既にご存知かもしれませんが、P-90は大別して2種のヴァリエーションとなっています。ソープバーとドッグイヤーです。ソープバーの方は長方形の形状を持ち、ソリッドボディのギブソンギターに搭載されています。ソープバーの取り付けネジはその長方形の躯体の中に通されており、見方によればポールピースが余分に取り付けられているような見え方となります。他方ドッグイヤーのP-90は、取り付けネジが文字通り“dog ears(犬の両耳のような形状)”の部分にマウントされており、こちらはセミ・ソリッド・モデルやホローボディのギブソンギターに搭載されています。
P-90搭載のレスポールは、純粋にハムバッカー搭載のレスポールのサウンドとは異なります。あらゆるシングルコイルのギター同様に、P-90はハムバッカーよりもよりシャキッとしたサウンドの傾向があり、よりミッドレンジも強調されています。もし皆さまが、多くのへヴィーロッカーのようなハムバッカーサウンド的なより大きく唸るトーンをレスポールにお求めになっているとしても、P90のシングルコイルならではの明瞭さ(ブライトさ)は皆さまへのちょっとしたヒントとなり、皆様のお好みのサウンドになりうるでしょう。
P-90のトーン特性を特別なものにしている要素は何なのでしょうか?その要素はたくさんあります。後に登場したハムバッカーと比較すると、P-90には低強度のアルニコマグネットと考えられる材料が使われています。この点により、P-90にはウォームでありつつより方向性のしっかりとれたサウンドがもたらされています。ハムバッカーのように弦振動を感知する幅広いエリアがある場合とは異なり、一列に並んだポールピースは、P-90サウンドを最大限にピュアで明確なトーンとなるよう作用しています。パワー感、ピュアさ加減、粗さ加減、そしてシャキッとしたキレのあるサウンドが魅力です。さあ、怖いものなしです。どこからでもかかってこい!
登場から数十年を経たP-90サウンド
もちろん、P-90ピックアップのデザインが一切変わらなかったということではありません。近年はより強力なマグネットが使われ、従来と異なる層のプレイヤーがまた別の理由でヴィンテージ期とは異なるP-90を好んで使用しています。ヴィンテージ期のオリジナルのアルニコIIIマグネットは、1950年代のジャズの箱物ギターのトーンやチャック・ベリーやスコッティ・ムーアといった初期のロックンロールのスタイルのトーンとほぼ同義とされています。これらの初期のデザインのP-90ピックアップは、より明瞭に響き、柔らかめのサウンドで、よりアウトプットレベルは低く、甘さを伴ったトーンなのです。しかし、後期のアルニコV仕様のP-90サウンドはより攻撃的で、がなるようなパワフルなトーンを有していると考えられています。おそらく皆さまが連想されるのは、フレディー・キングのようなスモーキンなサウンドやジョニー・サンダースやクラッシュのミック・ジョーンズのようなパンクサウンドではないでしょうか。
皆さまそれぞれのお好みの違いはあるにせよ、今もなお多くのP90を装備した現行版のギブソンギターが入手可能です。強力なミッドレンジ、フルパワーでガツンと来る低域、調和的に複雑さを醸す高域といったサウンドの特徴を併せ持ち、現行版モデルは皆さまのご期待を裏切りません。ウッディな方向にもメローな方向にもサウンドさせることができますし、熱狂的に荒々しい方向にもサウンドさせることができるのです。全ては、ギタリストの皆さまがどのようにプレイしどんなアンプにプラグインするのかで、いかようにもプレイできるでしょう。P-90搭載のギブソンギターは、ジャズ、ブルーズ、カントリー、ロカビリー、パンク、へヴィー・メタルなどあらゆるジャンルでの演奏が可能です。レスリー・ウェスト、ビートルズ、ボブ・マーリー、ピート・タウンゼンド、ポール・ウェラー、スコッティ・ムーア、そしてパンクス達をも含む多様なギタリスト達から愛されてきたという事実が何よりの証拠です。どうでしょう?気に入らないわけがないのでは?お試しいただけるモデルが楽器店に並んでいますね。さあ、皆さま、ギブソンディーラーへ足を運ぼうではありませんか!
現行モデルでのP-90搭載モデル
True Historic 1956 Les Paul Goldtop Reissue
ギブソンカスタムのトゥルーヒストリックシリーズでは、再現度の高いディテールが呼び物となっています。1950年代のオリジナルパーツを研究室レベルで分析し復刻したプラスチックパーツからダブル・カーヴド・トップの工程(二度に分けて精緻なボディトップ形状をハンドサンディングで再現するプロセス)、精緻な切削とシェィピングが施されたネックプロファイル、入念に手作業で仕上げられた極薄フィニッシュまで、ディテールの極みが具現化されています。トゥルーヒストリックシリーズのギターは、前世紀中期のギブソン・ソリッド・ボディ・ギターの黄金期をルーツに持つ、もっとも完成され、正確で洗練さを極めた復刻品なのです。本モデルにおいては、アルニコIIIマグネットを擁するP-90ピックアップが搭載されています。
仕様詳細はコチラにてご確認ください → Gibson True Historic 1956 Les Paul Goldtop Reissue.
CS-336 Mahogany
これはまた素晴らしい逸品です! 革新的なCS-336のセミソリッドモデルでのニュースタイルです。本器は二基のパワフルなドッグイヤータイプのP-90ピックアップを擁し、ソリッドマホガニーによるボディ部については、トップは削り出しで内部はチェンバード構造という構成になっており、拡張されたミッドレンジとガッツあるトーンが魅力的です。4色のゴージャスなフィニッシュは、1950年代のレスポールスペシャルのカラーリングから一部着想を得ています。TVイエロー、TV ホワイト、TV ブラックゴールド、そしてチェリー・ウォルナットとなります。CS-336はES-335の小型版ともいえます。
仕様詳細はコチラにてご確認ください → Gibson CS-336 Mahogany.
Les Paul '60s Tribute 2016 T
昨年より展開中のこちらのモデルは、ギブソンの歴史で受け継がれているヴィンテージスタイル・フィニッシュにて仕上げられています。仕様について装飾的な要素を排し簡素化し、バインディングの施されていないボディとネックは、シンプルさを信条とするギタリストやミニマリストには堪らないルックスを提供しています。本モデルにおいてもP-90が搭載されており、僅かにホットな方向にアレンジの加えられたアルニコVマグネットが採用されています。お買い得ですね!
Les Paul Special Singlecut Maple Top
LP Specialモデルのヴァリエーションとして、メイプルトップ版はいかがでしょうか?トータスシェル風のピックガードやダークチェリーフィニッシュにより、トラディショナルな雰囲気を纏った仕上がりです。本モデルにおいてもP-90ソープバーが搭載されています。
SG Naked
P-90搭載のSGモデルはいかがでしょう?Gibson USA SG Nakedモデルは今や市場で見つけるのは困難かもしれません。ナチュラルとウォルナットの2色にてサテン仕上げでした。見つけたときには、あっ、とお思いになるでしょうね。アルニコV仕様のP-90ピックアップ、オールマホガニーボディにより、クラシカルな佇まいですね!