Return to Gibson.jp
Gear & Tech

ピックアップは比較的にシンプルな装置です。しかし、お手持ちのギターの中でピックアップの働き具合に根本的な影響を及ぼすいくつかの条件の変化によって、大きな悪影響を受けることがあります。使用方法、調整方法、お手入れの方法の僅かな違いにより、出音に劇的な違いをもたらすこともあり得ます。以下に挙げる秘訣やちょっとしたコツ、皆様が電磁石による機器を最大限活用できるよう手助けしてくれる一般的な情報の断片なども併せて、じっくりと研究してみましょう。

 

1 – より高い抵抗値ということだけでは必ずしも、“よりパワフルな” ピックアップを意味しません。

一般的には、ピックアップの抵抗値の値はいわゆる“出力”レベルを大まかに示す指標になっています。しかしそこには、“他の事情が全て同じであるならば” という注意事項を必ず考慮にいれるべきです。他にも、そのピックアップが個別のギター上でどれだけ“強力”にサウンドするのかについて、影響を及ぼしている多くの要素があります。オームの値で示される素の抵抗値の指数だけでは全てを判断することはできないのです。

使用されているマグネットのタイプや強度、ピックアップのコイルに巻きつけられているワイヤーのゲージ、ピックアップのインダクタンス、そして全体のデザインや構造などすべてが一体となり、どれだけハードにそのピックアップはアンプをドライヴさせられるのかを決することとなり、そのサウンドの特徴にも影響を及ぼします。もし皆様が次から次へとピックアップを載せかえることにご興味がおありでしたら、ピックアップの抵抗値の情報だけに頼りきって即座にピックアップの購入を決める前に、上述した様々な抵抗値以外の要素についてもよく検討してみる価値があります。

 

2 – 最高のサウンドを得るのに、必ずしも高出力のピックアップが必要というわけではありません。

現在さまざまな高出力のピックアップが市場を賑わせています。時には、それらの中のひとつをチョイスすることがヘヴィーロックやメタルやコンテンポラリーな速弾きのような特定のスタイルの音楽への近道となります。しかしながら、だからといって、必ずしも最高のサウンドを得るのにスーパーホット(超高出力)なピックアップが必要ということではありません。考えてみてください。へヴィーメタルは60年代の後半に確立された音楽ですが、そこでは当時オリジナルのGibson “PAF”や“Patent No”入りのハムバッカーやP-90のシングルコイルが使用されていたのです。今日の基準からすれば、それらはどれも“高出力な”ピックアップではありません。

言い換えれば、最高なハイゲイン・トーンを得るのにハイゲインなピックアップが必要なわけではありません。よくあることですが、スタンダードなピックアップやヴィンテージ仕様にワインディングされたピックアップで十分に幅広いダイナミクスや深みのある豊かなトーンを生み出せますし、オーヴァードライヴ、ディストーション、ファズなどのペダルやアンプのハイゲインチャンネルを絡ませることで、焼き焦がすようなハードなトーンを得ることもできるのです。それも多くの超高出力のピックアップで得られる以上により音楽的なトーンと遥かに明快さを伴うトーンが得られるのです。

 

3 – マグネットの取り付け位置がトーンに影響を与えます。

より明確に言うと、ピックアップのデザインの中でマグネットがどのように配置されているのか、ポールピースとして作用するようコイルの内側に配置なのか、コイルを貫通しているスチールのポールに接するようコイルの下側に配置なのかといった点が、そのピックアップのサウンドのブライトさや明瞭さに影響を与えます。相対的にいって、コイルの内側のマグネットの場合はよりブライトでクリアさが増し、コイルの下側のマグネットの場合は重厚で肉付きのよい、時には僅かにザラザラとしたエッジ感を伴います。これは決して、どちらが良いとか悪いとかいう話ではありません。しかし、皆様のトーンの形成において、ピックアップがどのように寄与するのかをご理解いただくための、もうひとつの豆知識なのです。

こちらの事例もご確認ください。当時1950年代の中期に、ギブソン社の社長であるテッド・マッカーティがエンジニアのセス・ラヴァーに対し、より明るめで、より明瞭なサウンドのピックアップを開発するよう命じた時、ラヴァーはその時既に存在していたP-90の基本構造(コイルの下に2本のバーマグネットがある構造)を応用しました。そして、ピックアップのコイルを貫通していたスチールのポールピースをやめてアル二コのバーマグネットの一本化を図りました。アル二コV仕様で後にメインストリームとなるピックアップの誕生です。

 

4 – ハムバッカーだからといって、必ずしもより出力が高いとは限りません。

初心者に提供される大まかな情報の多くは、“ハムバッカーはシングルコイルピックアップよりも出力が高い”という内容ではないでしょうか。しかし、そのことはある意味間違ってはいないかもしれませんが、絶対にそうだとも言い切れないものです。シングルコイルピックアップでも多くの種類が存在します。その中でもギブソンのP90は、伝統的なヴィンテージスタイルのハムバッカーと同じくらいハードにアンプをドライヴさせることができるのです。

セス・ラヴァーとウォルター・フラーが1950年代中期にギブソンの“PAF”ハムバッカーを開発した時(そのピックアップこそが今日のフルサイズのハムバッカーの文字通り原型となったものだったのですが)、彼らは根本的に、当時既にあったP-90のシングルコイルピックアップの構成要素を2基のより幅の狭いコイルへと振り分け、新しいダブルコイルのデザインを創造したのです。それゆえ、これらのピックアップは各々、全体で約10,000ターン分の42 AWGワイヤーが巻かれており、ハムバッカー構造の中で二つのコイルに分けられており、同時期のピックアップでは同様のアルニコバーマグネットが採用されていました。(P-90では2個の、ハムバッカーでは1個のマグネットが搭載されていました)

結果として、これらP90やPAFは、平均して7.25kオームから8.25kオームの抵抗値を持ち、チューブアンプをドライヴさせるに十分な出力を誇ります。注目に値することは、ハムキャンセルの機能の違いはさておき、この両者は幾分違ったサウンドを有するということです。その理由は…

 

5 – ピックアップの形状と幅はトーンに影響を及ぼします。

このように考えてみましょう。弦の振動を感知する範囲が狭ければ狭いほど、ピックアップのトーンはよりタイトによりブライトになっていきます。(もしくは、より正確には、そのピックアップが載っているギターから引き出されるトーンはよりタイトにブライトになります) それゆえ、フルサイズのハムバッカーのようなより幅広なピックアップの場合、より幅の狭いミニハムバッカーやシングルコイルのデザインのピックアップよりも一般的には、幾分より温かみのある豊かなサウンドを捉えることになります。更に言うと、P-90のような比較的に幅のあるシングルコイルピックアップは、60年代のメロディメイカー搭載のピックアップのようにより幅の狭いシングルコイルよりは、より温かみのある豊かなサウンドになる傾向があります。

再度申し上げますが、これはどちらが良い悪いという話ではありません。これは、皆様が異なるタイプのピックアップから得られるサウンドはどんな違いがあるのかと予見するための、もうひとつの方法論なのです。そして、上述してきたことと同様に、“全ての条件がいっしょであるならば”という注意事項を適用して考える必要があります。部分的に共通する構造をもつ2個の別別のピックアップの別々の異なる側面が、より幅の狭いピックアップをより重厚でウォームな方向へと影響を与えているかもしれませんし、より幅の広いピックアップをよりブライトな方向へと影響を及ぼすかもしれません。

 

6 – 弦に近ければ近いほど、サウンドは良くなる…いいえ、そういうことではありません!!

ピックアップの高さを調節する際、弦に近づければ近づけるほど、出音は大きくなることは理にかなっています。しかし、それは必ずしもサウンドがより良くなったということではありません。多くの場合、伝統的なハムバッカーは、弦をかき鳴らしたときに弦振動の軌道とぶつからない程度まで弦に近づけられるようにせり上げることができます。ところが、そのような調整方法ではそのギターのもつ最高のサウンドはまず得られないでしょう。弦にあまりにも近すぎる場合、たとえサウンドは多少重厚になろうとも、多くのピックアップは耳障りなサウンドが鳴り出したり、みすばらしく息詰まった風な響きがするようになります。そのような場合、ピックアップを少し下げてあげることで、そのギター本来のヴォイスを取り戻せるのです。

マグネットのポールピースを搭載しているピックアップについては、弦にポールピースを近づけすぎた場合、実際に弦の振動を妨げるようになります。それゆえ、ギターは息詰まった歪んだトーンになります。もしくは、マグネットが弦を引き寄せるためにピッチが合わなくなります。奇妙な不協和なハーモニクスやゴーストノートを作り出してしまいます。これは、ピックアップのコイルの中のマグネットが弦を引っ張るときに起こる現象で、振動の軌道を減衰させ弦のピッチが外れた状態を惹き起こします。

 

7 – ハムバッカーのポールピースを調整しよう。

伝統的なフルサイズのハムバッカー上で一列に並んだ、ネジ切りされたスチール製のアジャスタブル・ポールピースは、一般的には各弦の出力バランスを調整する機能とみなされています。しかし、自由な発想に従う水平思考の考え方をすれば、アジャスタブル・ポールピースは本質的なトーンの調整のために活用できるのです。この助言に対して思考の準備をするために、先ず最初にハムバッカーの各々のコイルを単体のシングルコイルとみなしてみましょう。次に、こう考えて見ましょう。個々のピックアップが弦から拾い上げるサウンドは、ブリッジとネックの間に仕込まれるその位置関係によって大きく左右されるということです。ブリッジ側に近ければ近いほど、ブライト(明るめ)でシャープ(鋭い)なサウンドになり、ネック側に近ければ近いほど、ウォーム(温かみがある)で丸みを帯びたサウンドになります。ハムバッカーは2個のコイルを持つ構造ですので、結果生じるヴォイスは、ふたつのコイルの僅かに異なる位置関係によるサウンドの違いを混ぜ合わせたものなのです。

さてここで、伝統的なギブソンのネックポジションのハムバッカーにおいて、アジャスタブルポールピースが指板エンド側に位置していることに留意してください。一方、ブリッジポジションのハムバッカーでは、アジャスタブルポールピースはブリッジ側に位置しています。ブリッジ側のピックアップを若干ウォームに響かせるため、ブリッジ側のアジャスタブルポールピースをコイルの内側深くまで下げて、ピックアップ全体を弦に接近するようせり上げて見ましょう。その結果、ブリッジ側から離れているほうのコイル(こちらは固定されたスラグ・ポールピース)はもともとの状態よりも比較的に弦に近い位置関係になります。それゆえ、二つのコイルの出音がブレンドされるとき、元の状態よりは比較的によりラウドな響きになるのです。ネック側のピックアップを幾分クリアにして鋭さを増したい場合、同様の作業をしてみましょう。もしくは、今申し上げたことと逆の効果を狙う場合は、アジャスタブルポールピースを上げてピックアップ自体をボディの内側深くまで落としこんでみてください。2個のハムバッカーからお好みのサウンドを引き出せるよう、今述べたようなセッティングの変更パターンをいろいろと試してみてください。

 

8 – どうかお知恵を!ピックアップがキーキーと鳴っています。

プレイヤーの創造性から発する音楽的に調和するフィードバック音とは対照的に、不必要なフィードバックでキーキーと鳴っているピックアップに直面したら、多くのプレイヤーはピックアップのコイルのポッティングの処理を急がねばと思い込むでしょう。つまり、コイルをホットワックスかパラフィンに浸し、大音量時に不要なフィードバック音を惹き起こす原因になっていたと思われる細いコイル線の巻かれた箇所のあらゆる隙間や緩んだ箇所を埋める処理です。しかしながら、大抵の場合、キーキー鳴っているのはコイルではなく、いざプレイし始めた時に振動し始めたピックアップカヴァーやベースプレートなどの金属パーツの高周波の振動が原因なのです。

もし皆さまがピックアップやピックアップカヴァーの取り外しや、ハンダやホットワックスなどの扱いに慣れていらっしゃるのであれば、ご自身の手で対処できるでしょう。もしそうでなければ、プロのリペアマンまで持ち込みましょう。もし貴重なヴィンテージピックアップをお持ちの場合、無条件にプロのリペアマンに委ねるのが得策です。そうは言ったものの、フルに全体を再ポッティングするよりも、こういったハウリングに対する処置は、一般的には比較的に平易な2段階のプロセスで対処が可能です。

先ず、どのベースプレートもしっかりとピックアップの底部にネジ止めされているかどうか確認してください。次に、どの金属カヴァーもいったん取り外し、即座にカヴァーを交換しカヴァーとコイルの間にワックスが行き渡るように押し込む前に、若干のホットワックスをコイルの上部から一滴一滴落としてみましょう。そうすることによって、隔離する層が出来上がり不要な発振を弱めることとなるでしょう。私はこの処理を、フルサイズのPAFスタイルのハムバッカーからファイアーバードスタイルのミニハムバッカー、廉価版のギターに搭載されている古い金色の金属箔がはられたピックアップまで、あらゆるタイプのピックアップで実践したことがありますが、ほとんどのケースで大成功でした。このやり方で上手くいかない場合は、やはりピックアップを再ポッティングする必要があるのかもしれません。

 

9 – ギターを磨き上げてもピックアップはそのままにしてください。

お手持ちのギターをクリーンに磨き上げた状態に保つことは、最高の外観を保ちフィニッシュの保護に役立つのみならず、指板上で皆様の手にまとわり付くべとべとした不純物やパーツ類の性能を妨げる汚れなどを取り除くことで、どんなギターも弾きやすい状態に保つことに役立ちます。しかし、このギターを磨き上げる過程での留意点は、どんなポリッシュや磨き剤もピックアップの中に入り込まないように注意しなければならないということです。ポリッシュを含むどんな液体も、もしコイルに染み込んだ場合、最終的にはピックアップのショートや不良を惹き起こしかねません。

ポリッシュをギターに塗布する場合、最初に乾いたクロスでピックアップを覆い、余計なものが入り込まないようにしましょう。そしてギターのボディから不純物がすべて取り除かれるまで、ピックアップを保護しましょう。もしピックアップ自体を磨きあげる必要がある場合、糸くずのでない乾燥したクロスで優しく磨きあげましょう。

 

10 – 汗をどっさりかいたのですね?拭き取ってください!

上述した9番目の項目に引続きまして、もし皆さまが演奏時に多量の汗をかかれるのであれば、クロスを直ぐ手の届く位置に用意して、酸化した湿気がコイルのなかに入り込まないよう、ギターのトップやエスカッションやピックアップをいつでも拭けるようにしてください。数年前、私はRocket From The CryptのギタリストであるAndy Stametsにインタビューを行いました。彼は、この湿気が理由でツアー中に2-3回、彼のレスポールカスタムのピックアップを交換しなければならなかったと語っていました。プレイヤーによっては汗っかきの人もいますし、それほどではない方もいます。もし皆様が汗っかきでしたら、汗からピックアップを守るよう対策が必要となります。