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Gear & Tech

ギターの指板は、演奏において極めて膨大な量のあらゆる表現が実際に行われる箇所です。指板上でギタリストの指が弦に触れることで、意図した音階を奏でます。ということは、指板とは演奏におけるフィジカルな側面(実際に弾く行為)とコンセプトの側面(頭に浮かぶアイデア)をつなぐ交差点のようなものなのです。指板上で弦は、プレイヤーの指で押さえられたり、ベンドされたり、タップされたり、ハンマリングされたり、プリングされたり、軽くはねとばされたりし、時には芸術の名のもとに過酷な弾かれ方をすることもあります。また指板上において、私達は思い浮かんだ音楽を視覚化させたりします。例えば、スケールのパターンだったり、コードトーンだったり、メロディの断片だったり、何フレット目なのかだったり、一塊のブロック化したパターンだったり、またはそれら以外でも、プレイヤーの音楽をプレイヤーの内面から意識や指や耳にまで行きわたらせるためにしなければならないすべてのことなどを、指板上で視覚化するのです。ですから、ギタープレイヤー達が指板に大きな関心をもってチェックすることや、音階を絞り出し、アルペジオを吐き出し、コードをつぎつぎに繰り出すために指板に最大限の可能性を求めている点など、やはり当然のことだと思いますよね。

 



 

ギター製造時の指板の処理として、ギター1本1本についてより一貫性のあるフレット周りの処理を可能とするために、ギブソン社はプレックの技術(PLEK technology)を採用しています。ベルリンにあるA+D Guitarrentechnologie GmbHという会社のGerd Ankeにより開発されたプレックは、信じられないほどに精緻な一貫性をもってギターのフレット周りの加工を最終的に仕上げることのできる、コンピューター制御されたシステムなのです。このシステムは、先ずフレットの状態をスキャンし、次に最高のプレイヤビリティをもたらすよう、自動的にフレットを削りながら仕上げていきます。このスキャンを行う時点で、1本1本異なるあらゆる指板上のデータが集積されます。例えば、指板面から測る各フレットの高さや、各フレットのRの値(radiusの値)や、指板上のRの値(radiusの値)や、ネック角や、ネック上のリリーフ(ごく僅かに順反りが既定)の状態や、ナット・ブリッジ他を含む中心線の設定(アラインメントの設定)など、1本ごとにスキャン時に計測されます。プレック・システムは非常に高性能なのです。もしスキャン・計測中のギターについてトラスロッドの調整が必要である場合は、プレックによる指板の加工の工程に移る前に、プレックを操作する技師にそう教えてくれるのです。

フレットが完全な状態で巧みに仕上げられた後、次にプレックは、ナット端での理想的な弦間隔や、フレットの高さに関係する理想的なナット溝の深さや、指板端のプロファイル(形状)などを計算にいれながらナットの溝を掘り下げます。もちろんプレックは、使用が想定される弦のゲージやテンション、ネックのスケールの長さ、ネックのカーヴの度合い(若干のリリーフの確保)なども考慮にいれて加工を進めます。熟練のプレック技師であれば、1本1本のギターに対して非の打ちどころのないセットアップで仕上がるようにプレック・システムを操ることができるのです。ギター1本1本固有の個体の持つ個性や違いはそのままに、どのギターにも共通する一貫したプレイヤビリティをもたらすよう、ユニークな材を用いた1本1本の最高品質のギターを生み出すことができるのです。

ギターのフレット、ナット、サドルの加工が済むと、ギターには弦が張られ、各弦がチューニングされます。最後のスキャンの工程では、仕様どおりに指板周りのすべての箇所が仕上がっているのかがチェックされます。そして次の工程で、フレットはハイグロスフィニッシュで磨かれ、プレックの工程は終了となります。

プレック・マシーンの工程では、これらすべての工程をものの15分で完了させることができます。プレックは、カスタムショップ工場でのLes Paulの生産で最初に導入され、後にSGの生産にも導入されていきました。その後約10年が経過し、プレックは今やほとんどのギブソンのラインアップで導入されています。