近年、Gary Clark Jrほどに称賛を浴びているギタリストはいないのではないでしょうか。ブルースに深く根ざしたスタイルでAustinを本拠地にするクラークは、ファンク、R&B、そして現代的で都会的な要素などをトラディショナルなブルースの基盤に注入することで、活気ある音楽を生み出しています。暫く前になりますが、名作と評判の高い彼のスタジオ盤、The Story of Sonny Boy Slimのリリース後、クラークとのインタビューに成功しました。トピックは、ソロの構成の仕方から練習の重要さなど多岐に及びます。ギブソン社が最近発表しましたGary Clark Jr. Signature SGモデルと併せて、インタビュー記事をお届けします。本邦初公開です。
ギターは12歳の頃に始められたようですね。どのように習得されていったのですか?
ちょうどクリスマス休暇のころ、学校が休みの頃でしたね。その後休み明けに学校に戻ると、学校の図書館に行って2冊の本を借りたのです。1冊目は“How to Play Guitar” (ギターの演奏法)という本でもう1冊は“Basic Guitar”(ギターの基礎)という本でした。コード(和音)表を学び始めまして、左手の指を正しいポジションにおいて慣らしていく、ということから始めたのです。指の痛みを感じなくなるくらいまで続けてましたね。暫くして他のプレイヤー達を知ることで、リード・ギターの内容も理解できるようになっていきました。毎週土曜の夜にやっていた“Austin City Limits”というテレビ番組をとおしてですね。そんな感じで弾き始めたのです。加えて、ジャクソン・ファイヴや他のソウルの名盤を聴いたり、私の父が聴いていたジャズやブルースのレコードやそのときラジオでかかっていた音楽なども聴いていましたね。
どのアルバムに最も影響を受けましたか?
私の人生を変えた3枚のアルバムがあります。Jimi Hendrixのコンピレーション・アルバムでThe Ultimate Experience、 Stevie Ray VaughanによるTexas Flood、そしてAlbert Collinsの初期のヒット曲や新曲の両方を収めた、アルバート・コリンズの後期の収録音源、Collins Mixです。それぞれのレコードはまったくの別物です。Stevie Ray Vaughanは獰猛でテクニカルな感じです。Hendrixは軽やかでどこまでも突き進むような感じで、今まで訪れたことのないところまで導いてくれるイメージです。Albert Collinsは突き刺すようなトーンで、コード(和音)も無く、ただただインプロヴィゼーション(即興)です。一音一音、これらのレコードから学び取っていったのです。
振り返ってみて、自分ならではの演奏スタイルを発見し自覚したときのエピソードはありますか?
その瞬間は、私が自分のギター、Gibson ES-125を手にいれた時ですね。ES-125を手にすると、Stevie Ray Vaughanのフレーズは弾けないですし、Hendrix的なプレイの方向も難しくなるんです。それで、ジャズ・コード(ジャズの和声)、代理コードや3コードのシンプルなブルースなどを学ぶようになったのです。2004年か2005年頃には実験的なことを始めていて、もうほとんど世捨て人のようになってました。たくさんのレコーディング機材を購入して、マイクロフォンの前に座って感性の赴くまま自分自身を表現しようと、新たな試みを開始していました。
ご自分の音楽を表現される時、初期の音楽スタイルへの回帰のようなものと表現されてますが、同時にブルースやR&Bを前進させ、ジャンル間の溝を埋めようと取り組んでますよね。Marvin GayeやCurtis Mayfieldに加え、Dr. DreやRZAのようなミュージシャンもリスペクトされているとおっしゃってますね。
そのとおりです。私は84年生まれで80年代、90年代に育ってきたんです。コンテンポラリーな音楽だったり、高校時代に流行っていた音楽などを聴いてきたのです。私はSouth Austinから街に出てきて、様々な音楽のテイストや志向を持つ、様々なバックグラウンドを持つ同世代に囲まれていたのです。クラスメートや友達が興味を持つアーティストの音楽、たとえばDave Matthewsから Bob Dylanまで、SnoopからBiggieまで、Foo FightersからNirvanaまでを聴くことで多くを吸収してきたのです。
Sonny Boy Slimで際立っているのは、ミックス後のギター・サウンドが素晴らしい点です。ミックス時はたいへん手間のかかる作業だったのでしょうか?
確かに多くの打ち合わせを必要としました。結局は、“car”ミックスに落ち着いたのです。車に乗っている時にベストなサウンドで響かせる、ということです。CDの製作と車を走らせながらの試聴に多くの時間を費やしました。ヴォリュームを上げたり下げたりしながら、音量による僅かな表情やニュアンスの違いを確認しながら、という具合にです。Austin周辺を何時間も車を走らせましたね。全曲ぶっ通しで聴きながら、ある曲から次の曲へと、まるで旅にでかけるような異なったVibes(ノリや雰囲気)を味わいたかったのです。車の中で最高のサウンドでなくてはならない、ということは常に心がけていることだったのです。
過去3-4年はGibson SGをずっとプレイされてますね。どのような経緯でSGを相棒とするようになったのですか?
実は、そのSGはFoo FightersのPat Smearからのプレゼントだったのです。’61 SG Reissueです。Foo FightersがAustinにきた時、The Sonic Highways projectの一部として参加の打診があり、Austinで生まれ育ったことを話していたのですが、私のほうはもちろんYesです。彼らとはウマが合って、彼らがアルバムの参加を打診してくれたのです。私はいつものES-125を持って登場したのですが、それではFoo Fightersのvibe(ノリや雰囲気)にフィットしなかったのです。そこで、Pat Smearは’61 SG reissueを持ち出してきて、それを私が弾くことになったのです。素晴らしいサウンドでした!私の帰り際、パットは私のところまで来て、“渡したいものがあるんだけど”というじゃないですか!ケースに入った’61 SG Reissueを手渡されました。本当に感激してしまいましたよ。
そのSGは、あなたが以前はもっていなかったもので何をもたらしたのですか?
今までプレイしてきたギターの中でもっとも噛み付くようなフィールです。このギターを持つと、何だってプレイできる気持ちになれるのです。このギターのフィーリング、ピックアップが自分のプレイに反応する感じ、噛み付くように歯切れがよかったり汚らわしい感じ、エフェクター類が無くてもきちっと出せる分離感、このようなことが全てできて、最高なのです。時に、ネック側のピックアップをセレクトしヴォリュームを下げると、素晴らしく美しい、歌うようなトーンが得られるのです。純粋に、このギターのサウンドに惚れてます。弾き易さも抜群ですしね。
ソロを構築する時はどのようにされているのですか?
ソロはいわば一か八かみたいなものです。あまり考えすぎたくはありません。ファースト・テイクで自然発生的なソロをキメたいと思ってます。ひとたびソロについて考えると、そのソロのプロセスについて、自分の馴染んでいるものからいったん離れることを必要とする、ということだと思います。それがあるグルーヴやあるコード進行上でインプロヴィゼーション(即興)するということ、つまりその瞬間の中にただ存在する、ということが必要です。本当にフラストレーションがたまるようなことです。ですが、ほとんどの場合、ソロはファースト・テイクかセカンド・テイクまでです。
今も変わらずに、一般的にいわれているような練習はなさっているのですか?
バトルです。必要だと思ってますよ。昔は毎日、6時間から8時間くらい、場合によってはもっと長い時間、練習したものです。じっと座ってギターを弾く以外の他のことは何もしないでね。今は、バスや飛行機での移動の中で、集中してまとまった状態の時間は多くは取れないのです。“travel”ギターと呼ばれるギターをプレイする連中をみたことはありますよ。その男は飛行機になかでそいつを取り出し、iPadに繋げて弾いていましたね。そのようにすれば練習は可能だとは分かってはいますがね。
ギター演奏について、今も新たなアプローチを研究しているのですか?
それはもちろんです。ギターを弾く毎回ごとに、新しい何かを会得しようとしています。テクニック的にももっと正確になりたいですし。ギターというものは、私が自分のフォーカスと関心を失わない大事な存在なのです。自分の関心を保ち続けることは簡単ではないですが、ギターは20年もの間私の関心を惹きつけてきたのです。
ご自分の将来について考えを巡らしたりして、時間を過ごしたりなさいますか?
父親になってから、スマートな意思決定をして長生きすることをよく考えています。しかしほとんどの事柄については、私はただ自分の知っていることと為してきたことに拘りを持とうと思っています。よく注意を払いながら、より良いミュージシャン、ソングライター、プロデューサー、アレンジャー、最終的には純粋にひとりの人間としてよりよくなるよう努力することです。日々、目覚めるたびに、前日よりはより良くなれるようにと考えています。私は自分の人生のあらゆる面において、そのように物事を考えています。