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黎明期のソリッドボディ・エレクトリックギターの礎を打ちたてようという初期衝動から出現した、時代を超越する最高傑作であるGibson Les PaulSG。この2モデルには間違いなくより多くの共通点がありますが、この2モデルを分け隔てるいくつかの要素により、最終的にはかなり性格の異なるギターになっています。確かにどちらのモデルでも同様の演奏テクニックを駆使してプレイすることができます。ところが、ルックスの点でもフィーリングの点でもサウンドの点でも、LPをSGと(またその逆でSGをLPと)取り違えることはあり得ません。両モデルにおいて必要不可欠となっている構成要素を開示することで、この2モデルについてどこにどのような違いが存在するのか、皆様の理解が進んでいくことでしょう。先ず、かつてギブソンのフラッグシップとなったシングルカットがそもそもどのようにダブルカットになったのか、ざっとおさらいしてみましょう。

 

SGの誕生: 発展的スタイル

製造終了から数年後にかつて作られたエレクトリックギターの中で最も崇拝される存在となった事実があるにも関わらず、ギブソンのレスポールは1960年までの時点ではその本領を発揮する状況には至りませんでした。レスポールを象徴するデザインは1958年までに既に確立されており、同年、レスポールの56年モデルのPAFハムバッカー搭載版が新たなサンバーストのカラーを伴って登場したのです。ところが、売り上げの方は当時なかなか火がつかない状況でした。ギブソンの出荷記録が示すところによれば、1956年に920本、57年に598本のゴールドトップを出荷した後、58年には僅か434本のサンバースト・レスポールを出荷しました。その数字は59年には643本に跳ね上がり、60年には635本へと下降しました。

60年代に差し掛かり、ギブソンはレスポールの抱えるセールスの難題を再精査しました。レスポールは一方の見方では時代の先を行き過ぎていました。(正確には6年早過ぎました)他方、多くのプレイヤーにはレスポールはより保守的過ぎて古臭いとさえ見られていました。次の10年へと移ろう時代の変わり目において、当時の顧客トレンドは派手で鋭角的でカラフルで尖がったものに対し好意的な状況でした。語弊を恐れずに言えばレスポールにはその要素は皆無でした。優雅に削り込まれた単板のメイプルトップと単板のマホガニーから作られたボディ、ボディトップの外周に巻かれたバインディング、その他長年かけてその有効性が実証されてきたギブソンのルシアーの持つ伝統技術の要素など、レスポールの生産には当時のギブソン社の技術の粋が尽くされていました。時代は、平板のボディ形状を持ち平面のボディトップ形状を持つ競合他社のギターに囲まれている頃です。精細を欠くレスポールの売り上げの状況下でほぼ間違いなく、それだけの技術の粋を尽くした甲斐はありませんでした。

 


The 2019 Les Paul Standard in Blueberry Burst

 

The 2019 SG Standard in Heritage Cherry


 

そのような状況下で、一石三鳥(二鳥ではなく三鳥です!)を狙うことは完全に理に適っていました。レスポール・スタンダードの最高のサウンドはそのままに、演奏時に崇高に感じられるギターへと変身させました。加えて、製造時においてより平易な生産プロセスの導入で生産コストを抑えることに成功しました。更に当時のマーケットトレンド(前述した当時の顧客トレンド)のチェックシートにも全て適う内容を実現させたのです。

 

程なく投入された2モデル

1961年登場のニューモデルは、純粋に単板のマホガニーから作られた滑らかなダブルカッタウェイのボディデザイン、ボディ両サイドの尖った先端と僅かに左右非対称形状のホーン部を持つシルエットを放ち、当時最もセクシーなデザインのギターと評価されました。先んじてリリースされていたシングルカッタウェイのレスポールよりもボディ厚はスリムになり軽量になりました。おまけに赤みの強いチェリーレッドのカラーで仕上げられていました。一方そのモデルのカスタムモデルに位置するギターは、派手なアークティックホワイトのカラーを纏い、全体に多層バインディンが施され、光り輝くゴールドパーツで飾り立てられていました。

このモデルは、Les Paul Standardモデルとして同一の名称で当時のギブソンカタログに掲載されました。一方、飾り立てられたカスタムモデルの方はLes Paul Customと名乗っていました。しかし、1963年以降、レス・ポール氏のエンドースメント契約が一時的に空白となったとき、そのモデルはSG Standardとして知られるようになり、その時以来ずっと、その名を聞けば誰でもダブルカッタウェイを連想するようになりました。一方、61年当時の初期バージョンは今日“Les Paul/SG”と呼ばれています。どちらにしても、この明らかなデザインの変化は功を奏しました。新たなデザインはより幅広い年代のプレイヤー達の関心を明らかに焚き付けました。ギブソンはこのニューモデルについて、初年度に1662本という途方もない本数を出荷しました。それは1960年に販売されたLes Paul Standardモデルの本数の3倍の数からもさほど離れていない規模の数量です。新たなLes Paul Customはホワイトフィ二ッシュと3基のピックアップを纏い、同様に大幅な生産数の上昇(1961年に513本の出荷)という幸運に浴しました。

 

共通した材料

新たなギターデザインの土台部分以外では、この新たなダブルカット・レスポールは変わらず、シングルカットのレスポールに搭載されていたものと同様のパーツ類と電子パーツを装備していました。それらはクルーソン・チューナー、チューン・オー・マティック・ブリッジ、2基のハムバッカーなどでした。ハムバッカーについて当初は、1960年製の最後のシングルカッタウェイ仕様のレスポールに搭載されていたものと同様にPAFピックアップが搭載されていました。ギターのネックは基本的に変更はなく、スケールの長さも変わらず、ギブソンプレイヤーにお馴染みの24.75インチでした。特徴的なギターサウンドに影響を与えるピックアップやパーツやスケールの長さが果たす役割の大きさについて改めて考えてみると、これらすべてはやはり間違いなく重要な要素でした。

しかしながら、新たなLes Paul StandardとCustomの多くの実器では、一点特殊なパーツが装着されていました。それはデラックス・ヴァイブラートの形状をしていて、その使われ方から“sideways vibrola”と呼ばれていました。ギブソンファンからはほとんど愛されることはなく、使い過ぎるとギターのチューニングを滅茶苦茶にしてしまう恐れから、このパーツは多くの場合、単純に無視されていました。そして多くの初期のLes Paul/SGは、ヴァイブラートの一貫性のなさから完全に回避しようと、ストップバーテイルピース仕様(もしくはストップバーに変更された状態)で特別にオーダーされました。レスポールが正式にSGになる頃までに、デラックス・ヴァイブラートは徐々に消えていきました。そしてSGには使い勝手のよいテイルピースが標準装備されました。

 

両者の持つトーンについて: SG vs Les Paul

この両者を並べてみて設定されている仕様内容をみても、ボディ形状と木部の厚みと材構成以外にLes PaulとSGに間にはさほど大きな差はないように思えます。では、どうしてこの両者にはまったく別個の個性が宿っているのでしょうか?

その質問の答えが示すところは、あのより薄くオールマホガニーからなるボディがこの複雑な問題のなかでいかに重要であるのか、ということになります。最高傑作品であるシングルカッタウェイのレスポールがもっともよく知られている理由は以下のとおりです。その厚みがあり豊かで温かみのあるトーンに加え、ゆとりあるローミッドの唸りと音域を突き抜ける澄んだトーンや、温まり切ったアンプのハイゲインチャンネルや優れたオーヴァードライヴ・ペダルを通した時に奏でられる艶やかなリード・トーンなどです。

ところが私達は通常、より厚みのあるオールマホガニーのギターはLes Paul Standardのメイプル・トップ、マホガニーバックの構造のギターよりもより温かみがありダークなトーンになると考えますが、実際にはSGのより薄い形状のボディとレスポール以上に高い位置でネックがボディに接がれている点により、SGモデルによりきびきびとしたしゃれた、より鈴鳴りするトーンがもたらされているのです。それでもSGには依然、程よい温かみと深みは具わっています。しかし、中低域の一定の唸りの成分を引き換えにより明るい中高域の抜けが実現されています。さあ、音量を上げて弾いてみましょう。SGモデルではレスポール同様のむせび泣くトーンも出せますが、レスポールのリード・トーンは僅かに“分厚い”方向性に傾いている一方、SGのリードトーンはより“鋭い切れ味”の方向性に傾いているのです。

 

二卵性双生児

それはそうとしても、Les Paul StandardとSG Standardの間にはそれはそれは多くの共通点が含まれています。事実、そのどちらか一方をもう片方の代用として使用することは容易にできることでしょう。少し言い過ぎかもしれませんが、演奏内容のうちの78.35%は誰も気にも留めていないことを確認しましょう。その数字は研究室から導き出されたわけではないですが、きっとお分かりいただけるでしょう。どっしりとしたロックのクランチトーンと最高のパワーコードが必要だって?それでは両モデルとも試してみてください。パワー全開のハムバッカー搭載のボディと切れ味の鋭いクリーントーンも確認したいだって?両モデルとも確認してみてください。ギターソロ時の物悲しい泣きのトーンはどうだって?どちらでももってこいでしょう。

とりあえず言えることは、Les PaulとSGは共通した魂を分かち合っていて、両モデルとも核心をついた本質を捉えているということです。もう少し余分に低中域を押し出すニュアンスやもうひと伸びのサスティンが必要な場合、Les Paulを試してみましょう。僅かに肉を削ぎ落としたタイプのリードトーンや無機質で金属的なセミクリーントーンのアルペジオを弾く中もう少し鈴鳴りが必要な場合、SGを手にしてみましょう。もしそうでもなければ、皆さんの美的感性を解き放たないままでいる理由などありません。ええい、どちらにしても皆さん、Les PaulかSGのどちらかは手にすることになりますから!